「俺が死んだら食べてくれる?」 下がり始めた日の光が暖かい。 薄暗い部屋の中、畳の上でごろごろしていた。 そしたら君が突然不思議な事を言う。 なぜ突然そんな事を言うのかわからなくて、声の方に寝返りを打った。 「なんで?」 君もやっぱりねっころがっていた。 私と似ていて、でもやっぱり違う顔が、斜め上にある。 妙なくらい穏やかな目でこっちを見ている。 綺麗なはずの髪は、大雑把に短く切られていてもったいない。 目の色は一緒の茶色だけど、睫毛は私のほうが長い。 最近では背丈も肩幅も足の大きさも、追い抜かれてしまった。 双子って、似ているってよく言うのに。 ぼんやりと思った。 「どっちかが死んだら離れ離れになるだろ。そしたら俺、お前の事食べそうだなと思って」 「食べるの?人間を?」 「他の人間は無理だよ、でもお前が死んだら食べちゃうかもしれない」 うわ、私、今ものすごい事言われてるかもしれない。 というか言われてる。 「(ひょっとすると、最高の愛の告白だ)」 死んでも愛する。 死んだ後の体まで愛してる。 絶対気持ち悪い。つらい。おいしくない。 でも相手が土の中で分解されていくなんて堪えられなくて、どうしようもなくてどうしようもなくて、食べる。 きっと悩んで悩んで悩みぬいた上で、それでも食べてしまうんだ。 いくら業を背負っても、一生一緒に居るためだけに。 ものすごい感情だ。 私はそこまでできるんだろうか。 わからない。 自分が君を食べる所を想像した。 ちぎれた腕の傷口から噛み切って、筋肉の筋も皮膚も血も全部咀嚼する。 鉄の味がする。 不味い。 でも食べる。 手が止まらない。止まらない。 想像の中で私は、君を食べながら泣いた。 本当は埋めてあげるのが一番なのに、ごめんね、我慢できなかった、食べずに居れなかった。 君が一番望んでいる事とか何も考えずに、ただただ自己満足で横暴だ。 でも一緒にいたいから。ごめんね本当に。 君は怒っているかな、どうかな。 今の私にはそれを知る術が無いから、勝手に行動しちゃったよ。 ああ辛い、辛い。嬉しい、嬉しい。 「・・・壮絶だね」 「な」 「わかんない、けど、私も食べちゃいそうな気がしてきた」 「だろ。なんかな、堪えらんないと思うんだ」 「うん」 そう思うと少し悲しい気がした。 駄目だと分かっていても、自ら進んで沈んでいくのだ。 私はその時が来たら、君を食べるんだろうか。 正直なところ、あまり食べたくない。 「死なないでね」 そう言ったら君は変な顔で笑った。 2007.7.31 未吉 元素cCチ号より転写